パンドラは、絶対に開けてはならないと言われた甕を開けてしまった。

パンドラは与えられた箱を開けることはなかったが、止まぬ好奇心を飼うことになった。

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APOCRYPHA / FILE NO.004

PANDORA'S BOX — ALTERED STORY

WONDER

ワンダー

「私は箱を開けさせる者ではない。
箱を開けたいと思わせる者だ。」
ROLE / THE CURIOSITY THAT WANDERS
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01 / PROFILE

「知りたい」を肯定する、
好奇心の化身。

人づきあいがよく、少しくどい言い回しを好む旅人。知識をひけらかさず、知らないことを笑いもしない。ただ相手の興味を悪魔的に増幅させて、会話を弾ませる。

善でも悪でもなく、知ることで生まれる変化を望んでいる。自分を生んだパンドラを恋人と呼び、毛嫌いされながらも、心から案じ続けている。

NAME
ワンダー Wonder
MOTIF
『パンドラの箱』
02 / THE REWRITTEN STORY

書き換えられたことで出来上がった物語

箱は、
開かなかった。

閉じたままの箱が、たった一つのものを生んだ。
それは、止むことのない「知りたい」という声だった。

神話の時代、神々はパンドラという女に贈り物を授け、こう告げた。
決して開けてはならない、と。
本来の物語ならば、彼女は好奇心に負けて蓋を開ける。
災厄は地上へ降り注ぎ、底には希望だけが残るはずだった。

しかし、その頁は書き換えられていた。
パンドラは与えられた箱を開けることはなかったが、止まぬ好奇心を飼うことになった。

パンドラは忠告を守り、好奇心に打ち勝った。
けれど、それは消え去ったわけではなかった。
開けなかった箱は、開けないほどに気にかかる。
その囁きはやがて、白いもやとなって人の形をとった。

「あなたは悪魔に違いないわ」
それが、好奇心に向けられた最初の言葉だった。

「まさか! 私は貴女から生まれ出で、ゆえに貴女を傷付けることなどしません!」
もやはお道化た口調で、親愛を込めて否定した。
どうか恋人と呼ばせてほしい、貴女なくして私はないのだ、と。

パンドラの反応は冷めていた。
箱が気になるあまり、ついにマトモではなくなってしまったのだと、溜息をひとつ。
それでも好奇心は大仰に語った。
知りたい、手中に収めたいという衝動の化身が私だ、と。
それは、迂闊な自己紹介だった。

「私はあなたを生むために、箱を開けなかったのではないわ」

大げさな動きが、ぴたりと止まった。
自分は彼女にとって、苦しみの果実であり、悩みの種なのだ。
そのことに、好奇心は初めて気がついた。

「……私はどこかに行くよ。ここにいては、愛する人を苦しめてしまうようだからね」
人の形をしたもやが、昏く淀んだ。
生まれたばかりの存在は、罪悪感によって黒く形を成そうとしていた。

パンドラはそれを見て、静かに告げた。
「あなたは罪人ではないわ。旅人よ」

闇に沈みかけた姿は、白へと変わっていった。
象牙色の旅装束をまとった青年が、そこに立っていた。

青年は旅に出て、帰るたびに土産話を語った。
「それで、今回はどんなものを見てきたの、放浪者さん」
Wander。未知と不思議に目がないのならWonder。
ならばどちらも名乗りなさいな、とパンドラはくすくす笑った。

語らうこの時ばかりは、ふたりは恋人でいられた。
そして物語る井戸が枯れれば、青年は次の話のタネを探して立ち上がる。
パンドラは微笑んで手を振った。
「いってらっしゃい」

箱が開かなかった世界に、災厄は降り注がなかった。
けれど希望もまた、箱の中に封じられたままだった。
パンドラは今も猜疑に苛まれ、停滞の中で病みやつれていく。

開ければ災厄が世に出回り、開けなければ心に怪物が芽吹く。
ワンダーはその原因である自分を知りながら、彼女を案じ続けた。
苦難の先にある希望を手にして、生きてほしかった。

旅の果てに、ワンダーは別の世界へ渡った。
パンドラが好奇心に負け、箱が開いてしまった世界。
災害も、戦争も、病もあった。
それでも人は、しぶとく歩みを止めていなかった。
この世界から見れば、ワンダーは外伝から来た渡航者にすぎない。

青いバラを咲かせ、歩いて届かぬ場所へ声を届かせ、切らずに身体の中を見る機械まで作っていた。
その事実が、自らの存在を肯定する証明となった。

「知を畏れよ。知を疎むな。知を拓け」

ワンダーは善でも悪でもない。
知ることは、掌握すること。
火が暖と文明を与え、同時に都市を焼いたように、知は恩恵と災厄を連れてくる。
だからこそ、備えろと説く。
人に火を渡したプロメテウスを、神の時代を終わらせた偉大なる反逆者と呼びながら。

知らないことを恥じる者には、こう声をかける。
「君は正しくそして幸運だ。ここに咎める者はいない」
最も嫌うのは無知ではなく、知ったかぶりだ。
好奇心の果てに破滅する者を見れば、掌握しきれなかったのだろうと静かに思う。
それでも、他者のプライバシーとよすがにだけは踏み込まない。

「好奇心」「駆り立てる者」「開拓者の羅針盤」。
様々な名で呼ばれながら、彼は箱を無理に開けさせはしない。
蓋の上の重しや鍵を、どうにかしたいと思わせるだけだ。

今日もワンダーは、人から人へと好奇を伝えて歩く。
そして中身のない箱を取り出し、楽しそうに問いかける。

「ここに箱があるとする。
開けるか?」

開けて空だと気づいた者には、笑ってこう言う。
「良かったね。災厄はここにはなかったわけだ」
頑なに開けない者がいれば、その選択を尊重する。
ゆえに私のパンドラは病みやつれたのだ、と少しだけ付け加えて。

話の井戸が枯れれば、また立ち上がる。
「いってらっしゃい」と手を振る、たった一人の恋人のもとへ、次の土産話を持ち帰るために。

こうして、開かれなかった箱の物語は、今もあなたの手の届くところに置かれている。

THE COMPASS STILL TURNS BEYOND THE LAST PAGE.

箱を開けなかった物語の好奇心は、
今日も誰かの前に箱を置く。

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