ラプンツェルは、ひとりで塔に閉じ込められていました。

ラプンツェルは、“ふたり”で塔に閉じ込められていました。

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APOCRYPHA / FILE NO.002

RAPUNZEL — ALTERED STORY

WILHELMINE

ヴィルヘルミーネ

「妹が愛した世界を、
わたくしも知りたい。」
ROLE / THE WITCH WHO STAYED IN THE TOWER
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01 / PROFILE

塔に残された、
ラプンツェルの双子の姉。

オドオドとしてどもりがちな、心配性の魔女。人と話すことは好きだが、妖精以外と言葉を交わさずに過ごした年月が長すぎた。怒ったときだけ、静かで明確な言葉を使う。

今も食事を二人分用意してしまう。好きなものを尋ねられると、いつの間にか妹の話をしている。外の世界に怯えながら、それでも、いつか自分の足で歩きたいと願っている。

NAME
ヴィルヘルミーネ Wilhelmine
NICKNAME
ミーネ Mine
MOTIF
グリム童話『ラプンツェル』
AGE
20代前半に見える
(実年齢は本人にも分からない)
02 / THE REWRITTEN STORY

書き換えられたことで出来上がった物語

二人で、
ひとつだった。

書き換えられたのは、たった一文字。
その一文字が、一人の少女に終わらない孤独を与えた。

昔々、高い塔に閉じ込められた少女がいました。
少女の名前はラプンツェル。
本来の物語ならば、彼女は塔でひとり、王子と出会うはずでした。

しかし、その頁の「ひとりで」という言葉は、「“ふたり”で」へと書き換えられていました。

こうしてラプンツェルには、双子の姉が生まれました。
姉の名前はヴィルヘルミーネ。
気が弱く、臆病で、けれど誰かを放っておくことのできない優しい少女でした。

二人は幼い頃、魔女によって塔へ連れ去られました。
窓は遥か頭上にひとつだけ。
食事をするときも、眠るときも、歌うときも、二人はずっと一緒でした。
怖いことは二人で分け、嬉しいことは二人分にして喜びました。

窓辺で歌うのは妹。
その歌を聞きながら魔法を学ぶのが、姉は好きでした。

ラプンツェルとヴィルヘルミーネ、二人でひとつ。
片方だけでは、何を選び、どこへ行けばよいのかも分からない。
それが、ヴィルヘルミーネにとっての当たり前でした。

ある日、姉妹の歌声を聞きつけた王子が塔を訪れました。
王子が語る外の世界に、ラプンツェルは目を輝かせました。
やがて二人は恋に落ち、王子は姉妹を塔から連れ出そうとしました。

ラプンツェルは、差し出された手を取りました。
けれど、ヴィルヘルミーネには取ることができませんでした。

外の世界が恐ろしかったから。
魔女をひとり残していくことが、少しだけ可哀想だと思ってしまったから。
そして何よりも、違う道を選ぶ自分を、想像したことがなかったからです。

生まれてからずっと二人だった姉妹は、その日初めて別々の人生を歩み始めました。
ヴィルヘルミーネは無意識に二人分の食事を用意しました。
朝になれば隣の寝台へ声をかけ、夜になれば誰もいない窓辺で、妹の歌を口ずさみました。

しばらくして魔女は寿命を迎え、塔と魔法の知識を遺して亡くなりました。
残されたのは、そこに住みついていた小さな妖精たちだけ。
妖精たちは彼女を慕い、肩へ静かに留まってくれます。
それでも、言葉を返し、手を握り返してくれる妹の代わりにはなれませんでした。

ヴィルヘルミーネは、ひたすら魔法を学びました。
集中している間だけは、隣に妹がいないことを考えずに済んだから。
治癒の魔法。草花を育てる魔法。遠くへ言葉を届ける魔法。
悪夢を小瓶へ閉じ込める魔法。迷った者を導く灯火の魔法。

ある日、彼女は術式の一部を誤りました。
その魔法によって、彼女自身の時間が止まりました。

肉体は老いることをやめ、病でも死へ至らず、傷も長い時間をかけて元へ戻る。
人間の寿命から大きく外れた、半永久的な不老の身体。
魔法が成功したのか、失敗したのか。
彼女には分かりませんでした。

ラプンツェルからは手紙が届き続けました。
王子との暮らし。初めて見た海。城下町の祭り。春の花。秋の果物。
塔の外を知らない彼女にとって、手紙だけが外の世界へ通じる窓でした。

やがて力強かった筆跡は細く、震えるようになっていきました。
それでも、鏡に映る姉の顔は、別れた日のままでした。
毎月届いた手紙は季節に一度となり、やがて一年待っても届かなくなりました。

最後の手紙は、妹の筆跡ではありませんでした。
ラプンツェルが穏やかに生涯を終えたこと。
最期まで、塔に残した姉を想っていたこと。

そのとき彼女は初めて、自分が本当に独りぼっちになったことに気づきました。

外は怖い。
知らないものばかりで、隣にはもう手を握ってくれる妹もいない。
長い間、彼女は塔の扉を開けることができませんでした。

それでも、願うようになりました。
妹が手紙に書いてくれた海を、町を、森を、人々を。
今度は、自分の目で見てみたいと。

「妹が愛した世界を、わたくしも知りたい。」

それは、妹の歩いた道を追いかけるための願いでした。
同時に、「二人でひとつ」としてしか存在できなかった彼女が、
自分一人の人生を始めるための願いでもありました。

何年、何十年、あるいは何百年が過ぎたのか。
本人にも、もう分かりません。
妹の声も顔も、思い出すたびに少しずつ違っていく気がします。

多くの魔法を身につけた魔女でありながら、
一人で外へ踏み出すことだけが、今もできません。

今日も彼女は塔の扉の前に立ち、怖くなって動けなくなります。
誰かに無理やり連れ出してほしいわけではありません。
いつか自分から手を差し出して、自分の言葉で伝えたいのです。

「わたくしと一緒に、
外へ行っていただけませんか」

こうして、ふたりで閉じ込められた塔の物語は、たったひとりの魔女とともに、今も次の頁を待ち続けている。

THE DOOR STILL WAITS BEYOND THE LAST PAGE.

二人でひとつだった少女は、
今日も扉の前に立っている。

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