ごんは、一人ぼっちの小狐で、森の中に穴をほって住んでいました。

一人ぼっちの子狐は、いなかった。

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APOCRYPHA / FILE NO.005

GON, THE LITTLE FOX — ALTERED STORY

KON

こんちゃん

「ボクぅな、
みんな、みんなすきなの」
ROLE / THE LITTLE FOX WHO WAS NEVER ALONE
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01 / PROFILE

ニンゲンを信じすぎている、
小さなこぎつね。

幼く純粋で、疑うことを知らない。美味しいものが大好きで、おっかあのおやきも、兵十が焼いてくれたウナギも好き。誰のことも「にいちゃん」「ねえちゃん」と呼び、軽率に「家族になろう」と言う。

こんちゃん、ちびちゃん、ちびすけ、きつねっこ。どの名前で呼ばれても、ぜんぶ自分のことだと思っている。麦わら帽子とかご、おっかあがこさえてくれたべべが宝物。

NAME
こんちゃん Kon
MOTIF
『ごんぎつね』
02 / THE REWRITTEN STORY

書き換えられたことで出来上がった物語

一人ぼっちの
子狐はいない。

失われたのは、「一人ぼっち」という言葉。
その空白に、小さな子狐の居場所が生まれた。

むかし、中山から少しはなれた山の中に、ごん狐という狐がいた。
ごんは一人ぼっちの小狐で、しだの茂った森に穴をほって住み、いたずらばかりしていた。
はたけの芋をほりちらし、菜種がらに火をつけ、とんがらしをむしりとる。
本来の物語ならば、ごんは兵十のうなぎを盗み、その償いに栗や松茸を届け続ける。
そして最後には、兵十の火縄銃に撃たれるはずだった。

しかし、その頁から「一人ぼっち」が失われていた。
一人ぼっちの子狐は、いなかった。

ある雨の日のことだった。
強くなる前にと畑に出てきた兵十のおっかあが、一匹の子狐を見つけた。
まだ生まれて間もない、名前もない子狐だった。
迷子になって罠にかかり、ひゃんひゃんと鳴いていた。

原典であれば、誰にも見つけられなかったはずの子狐だ。
おっかあは罠を外してやり、家に連れ帰って手当てをした。
それは、生まれて初めての温さと安堵だった。

子狐は懐いた。
それはそれは、ものすごく懐いた。
最初こそいい顔をしなかった兵十も、あんまりにも人を疑わない子狐に絆された。

こんちゃん、ちびちゃん、ちびすけ、きつねっこ。
二人は好きなように子狐を呼んだ。
子狐は、そのどれもが自分を呼ぶ声だと思った。
「ちびちゃんも、こぎつねも、ちびすけも、ボクぅのおなまえなの!」
おっかあと、ぶっきらぼうな兵十に大事に大事にされて、日々すくすくと育っていった。

いつのころからか、こんちゃんは人の姿をとれるようになった。
いつだったのかは、もう覚えていない。
ただ、二人の畑仕事を手伝いたかったのだ。

おっかあは、べべをこさえてくれた。
兵十は、かごと麦わら帽子をくれた。
どれも、こんちゃんの宝物になった。

「ニンゲンのおててな、なんでもできるの!
だからボクぅな、おっかあたちをおてつだいするの!」

おうちの近くには、大きなおやまがある。
こんちゃんはかごを背負って山へ入り、おいしいものをたくさんたくさん集めて帰る。
それをおっかあと兵十が、ごはんにしてくれる。
おっかあのおやきも、兵十が焼いてくれるウナギも、大好きだった。
山の中には大きな川があって、そこではうなぎがとれるのだと、誰にでも嬉しそうに教えてやる。

雨が降り続くあいだは、外へは出られない。
けれど、穴の中でしゃがんでいる子狐はいない。
小さな子狐は、二人の膝の上でちょんと座り、空を見上げている。

あるとき、おっかあの体調が悪くなった。
ウナギが食べたいというおっかあのために、兵十は山の中の川へ向かった。
こんちゃんはおっかあのところへ置いてこられたのに、自分からとことこついてきた。

本来の物語ならば、この川で小狐は、兵十のうなぎを盗むはずだった。
そのいたずらが、すべての始まりになるはずだった。
けれどこの子狐は、ただ兵十のとなりで川をのぞいている。

おっかあと兵十に救われたから、こんちゃんはニンゲンが大好きだ。
ニンゲンが自分に怖いことをするなんて、考えたこともない。

こんちゃんは、ニンゲンを信じすぎている。
あの日自分がかかった罠を仕掛けたのがニンゲンだということを、理解していない。
ニンゲンの手は、自分を撫でるものだと信じ切っている。

だから、たとえその腕を振り上げられても、逃げることはしない。
期待に満ち満ちた目で、見つめているだけだ。

「ボクぅをいいこいいこしてくれるの? うれしい!」

見た目は中学生ほどでも、生まれてからまだ三か月から五か月ほど。
心は七つから十ばかりの子どものままだ。

こんちゃんは何も知らない。
自分に向けられた悪意を、悪意として受け取ることができない。
教えられたものを、そのままそれだと信じてしまう。
ただ、誰かの喧嘩を見るのだけは好きではなくて、頑張って止めようとする。

「こわいこと? にいちゃんやねえちゃんがいるなら、ボクぅにはなんにもないの」
そう言って笑う子狐に、怖いものはまだひとつもない。

今夜もこんちゃんは、ニンゲンさんたちの名前を聞いて回る。
長い名前は短くして、後ろに「にいちゃん」「ねえちゃん」をつける。
自分より小さな子でも、にいちゃん、ねえちゃんだ。
呼び捨てにするのは、兵十だけ。

「ここのみんなな、みんなな、すごいんだぁ!」
知らないお話をいっぱい聞いて、おっかあと兵十に話して聞かせるのだ。
そして、出会ったばかりの相手にも、何のためらいもなくこう言う。

「ねえ、ニンゲンさん。
かぞくになろう!」

こうして、一人ぼっちにならなかった子狐の物語は、今日も誰かの手を、撫でてくれるものだと信じて待っている。

THE RAIN STILL FALLS BEYOND THE LAST PAGE.

一人ぼっちの子狐は、
どこにもいない。

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