空から不思議な雲が降り、その上には、月の都の人々が乗っている。

月からの迎えは、来なかった。

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APOCRYPHA / FILE NO.003

THE TALE OF THE BAMBOO CUTTER — ALTERED STORY

KAGUYA

かぐや姫

「……今夜こそ、
来てくださるのでしょう?」
ROLE / THE EXILE WHO WAITS FOR THE MOON
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01 / PROFILE

迎えを待ち続ける、
月の罪人。

明るく天然で、古風な言葉で話す箱入り娘。数百年を独りで過ごしたため、誰かと話すときはとても楽しそうにしている。何事にも怒らないが、おばあちゃん扱いにだけはぴしゃりと怒る。

星の目をした、寿命のない月の住人。老いることのない身体は、罰として病弱にされた。想い人から贈られた彼岸花の首飾りを大切にしながら、今日も月へ文を綴っている。

NAME
かぐや姫 Kaguya
MOTIF
『竹取物語』
AGE
推定300歳
(見た目は18歳ほど)
TITLE
月の罪人
CRIME
不許の恋
02 / THE REWRITTEN STORY

書き換えられたことで出来上がった物語

迎えは、
来なかった。

失われたのは、八月十五日の夜の一節。
その空白が、一人の姫を終わらない待ち人へと変えた。

八月十五日の夜、月がたいそう明るく照り輝いていた。
本来の物語ならば、空から不思議な雲が降り、月の都の人々が姫を迎えに来るはずだった。
かぐや姫は天の羽衣を身につけ、竹取の翁と嫗は悲しみに泣き伏す。
姫もまた、地上で過ごした日々を思い、別れを惜しみながら月へ帰っていく。

しかし、その頁から、迎えの一節が失われていた。
月からの迎えは、来なかった。

かぐや姫は、月の罪人だった。
罪状は、不許の恋。
月の都には、他者を恋してはならないという掟がある。
永遠の命を持つ者たちにとって、恋も愛も、執着でしかなかったからだ。

それでも姫は、一人の方を愛した。
そして罰として、地上へ追放された。
老いることのない身体は、罰として病弱にされた。

恋というものは、自分の意思とは関係なく心が動いてしまうもの。
掟で止められるのなら、それは恋ではないと、姫は本気で思っていた。

けれど、姫は罪を後悔しなかった。
月の都で想い人から贈られた彼岸花の首飾りを、ただ大切に抱いていた。

竹の中から見つけられた姫を、翁と嫗は慈しんで育てた。
翁はたいそう心配性で、姫が少し外へ出るだけでも何度も振り返った。
嫗の作る食事は、月の都では味わえぬものばかりだった。

姫の美しさを聞きつけ、都の公達が次々と求婚に訪れた。
「されば、蓬莱の珠の枝をわたくしのもとへお持ちくださいませ」
姫は無邪気に微笑むだけで、誰の想いにも応えなかった。
心はとうに、月の上にあったからだ。

八月十五日が過ぎても、姫は月を見上げ続けた。
今夜でなければ、明日。
明日でなければ、その次の夜。
いつか迎えが来ると、少しも疑わなかった。

やがて翁と嫗は寿命を迎え、この世を去った。
屋敷も、人々も、長い年月の中で消えていった。
春に出会った者が、幾度か季節を巡るうちに年老いていく。

人は年を重ね、顔も身体も変わっていく。
生きた年月が、目に見える形で残っていく。
姫には、それが少しだけ羨ましかった。

けれど、寿命を持たない月の住人である姫だけは、変わらぬ姿のまま残された。
お顔も、お声も、心さえも、人は変わってしまう。
それなのに、姫だけは、あの日のままだった。

それから姫は、数百年を独りで過ごした。
誰にも名を呼ばれぬ日々の中で、嫗の味を再現しようと、二百五十年も研究を続けた。
それでも、あの味には辿り着けなかった。

床に伏せる夜は、たいそう長い。
目を閉じても眠れず、目を開けても景色は変わらない。
そんな夜、姫は月に向かって話しかけた。

そして、想い人へ文を綴った。
幾年、幾十年、あるいはもっと。
返事が届かなくとも、姫は微笑むだけだった。
きっとお忙しいのだろう。あの方は、昔から少々おっとりしていたから。

迎えが来ない理由は、たったひとつだった。
姫は今も、想い人を慕っている。
月の都にとって、それは反省していないということだった。

けれど、何を反省すればよいのだろう。
あの方を慕ったことか。
今も、慕っていることか。

愛したことを取り消さない限り、罰は終わらない。
そして姫は、それを決して取り消さない。

首飾りの彼岸花には、ふたつの花言葉がある。
「あきらめ」と、「また会う日を楽しみに」。
姫が知っているのは、きっと後のほうだけだ。
彼が自分を諦めたなどと、考えたことさえない。

翁たちを見送った今、地上に姫を待つ者はいない。
だから今日も、同じ言葉を口にする。

「月に帰りたい」

月へ帰る道が、どこにあるのかも分からない。
空をまっすぐ昇ればよいのか、雲の向こうに隠されているのか。
もし迎えが来たなら、三百年分の話を、何日かけて聞いてもらおうか。

長い孤独は、姫を不思議なほど優しくした。
誰に対しても分け隔てなく慈しみ、誰かと話せるだけで、心から嬉しそうに笑う。
けれど、その言葉はときおり人離れしていて、ひどく幼い。

帰る場所を失ったことにも気づかず、姫はハッピーエンドを純粋無垢に待ち続ける。
いつか終わると信じて待つのも、悪くはない。
それが三百年のあいだ、一度も揺らがなかった姫の答えだった。

今宵も、月は何ひとつ変わらぬ姿でそこにある。
誰かの足音が聞こえると、姫は嬉しそうに顔を上げる。
ああ、やはり今宵だったのだと、その人をじっと見つめる。

「……今夜こそ、
来てくださるのでしょう?」

違うと気づいても、姫は少しも落胆しない。
まあ、と首をかしげ、あなた様はなぜここへいらしたのでしょう、と尋ねる。
そして嬉しそうに、月の都の話を語り始めるのだ。

こうして、迎えの来なかった姫の物語は、今も月明かりの下で、書かれることのない頁を待ち続けている。

THE MOON STILL SHINES BEYOND THE LAST PAGE.

迎えの来なかった姫は、
今宵も月を見上げている。

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