ピーターは砲弾をかかえて火薬庫から出てくると、落ち着き払って海に投げ捨てた。

慌てたピーターは、フックを乱暴に蹴り飛ばした。

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APOCRYPHA / FILE NO.009

PETER AND WENDY — ALTERED STORY

HOOK

フック船長

「ふははは! よろこべ!
この俺様が来たのだ!」
ROLE / THE CAPTAIN WHO SILENCED THE CLOCK
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01 / PROFILE

世界一の大海賊を目指す、
傲岸不遜な船長。

普段は修羅場を乗り越えた船長らしく冷静。けれどピーターパンの話題などで熱くなると、乱暴な地の性格が顔をのぞかせる。「ああ、失礼お客人。少々興奮してしまったようだ」と取り直すのが常である。

目に付く者を片端から手下と見なす一方、約束は絶対に守る義理堅さも持つ。喧嘩を売られれば高値で買い取る。どこか憎めない男。

NAME
フック船長 ゲオリー・フックマン
MOTIF
『ピーターパンとウェンディ』
02 / THE REWRITTEN STORY

書き換えられたことで出来上がった物語

ピーターは、
礼儀を欠いた。

書き換えられたのは、たった一つの振る舞い。
その一蹴りが、敗れるはずの船長を生き延びさせた。

ネバーランドの海賊船で、最後の戦いが続いていました。
フックはもう望みを失って戦っていました。
その激しい心は、生きながらえることを求めていません。
ただ最後に一つだけ、ピーターが礼儀に欠けたふるまいをするのを見ることを望んでいました。

フックは火薬庫に駆け込み、火をつけて叫びました。
「二分したら、この船はこっぱみじんだ」
本来の物語ならば、ピーターは砲弾をかかえて出てくると、落ち着き払って海に投げ捨てるはずでした。

しかし、その頁は書き換えられていました。
慌てたピーターは、フックを乱暴に蹴り飛ばしたのです。

「はは。ははは。そうだ、そうだったのだ。やはりパンは傲岸不遜な小僧だ。悪魔なのだ」

海へと落ちるわずか数秒の間、フックは勝ち誇りました。
そして、今までどうしてピーターに恐れを感じていたのかと、自分を恥じました。
望みは、たしかに叶ったのです。

冷たい海の中で、熱くなっていた思考が急激に冷えていきました。
目の前には、落ちてきたフックを食べようと迫りくる、あのワニの姿。
カチ、コチ、と腹の中の時計を鳴らし続け、長年彼を怯えさせてきたワニです。

今までで一番冴えわたっているフックの頭には、その姿が非常に遅く見えました。
フックは冷静に、剣をワニの口の中へ差し込み、捩じりました。
痛みに暴れるワニの口から、勢い余って懐中時計が飛び出します。
フックはそれを受け取り、ワニにとどめを刺しました。

その後、フックは船へと這い上がり、ピーターパンを追い払って、船についた火を止めました。
ピーターは、フックよりもウェンディや子どもたちを優先して、その場を離れました。
フックも追おうとはせず、引き上げました。

もう、どこからも時計の音は追いかけてきません。
あの音は今、彼自身の懐で鳴っています。
こうして、本来ならそこで終わるはずだった船長の物語は、続きを持つことになりました。

恐れていたワニを打ち倒し、フックはさらなる自信を身につけました。
取り返した懐中時計は、その証として今も身につけています。

結局は俺の思うとおりに事が運んだ。やはり俺は正しい存在だ。
今や俺は黒ひげをも上回る。
もともとはあいつの船に乗っていたが、今度は俺が黒ひげを水夫にしてやる。
過剰ともいえる自信とともに、彼は海賊として大きく成長を遂げました。

そしてフックは、あることに気づきました。
敗因は、手下が間抜けなことと、数で負けていたこと。
戦いは数なのだ、と。

自分をここまで追い詰めたピーターパンを、手下にすることが出来れば。
今度こそ、自分に怖いものはなくなる。
倒すために追いかけていた相手を、今度は手下にするために追いかけ始めたのです。

それからのフックは、目に付く者へ片端から声をかけています。
断ろうと断るまいと、彼の中ではすでに手下です。
「おい、そこのお前。俺の飯を持ってこい」
初対面の相手にも、平然と命令します。

けれど、使い捨ててばかりでは数は増えません。
曲がりなりにも子どもたちと協力していたピーターの姿を思えば、少しばかりの面倒見の良さも出てくるようになりました。

「俺様の目的は、世界一の大海賊になること」

長い時間が過ぎ、ネバーランドに流れ着く物も近代化しました。
右腕は精度の高い義手に。
リボルバーだけでなくオートマチックハンドガンを持ち、葉巻だけでなく紙タバコも吸います。

高圧的な態度の奥に、ごくまれに紳士的な一面がのぞきます。
約束したことは絶対に守り、時折、善性のようなものさえ垣間見せます。
傲岸不遜なのに、どこか憎めない。
それが、生き延びたフック船長という男でした。

ピーターパンの名を耳にすれば、途端に地の乱暴さが顔を出します。
けれど、すぐに咳払いをひとつ。
「ああ、失礼お客人。少々興奮してしまったようだ」
基本的には、それで取り直せるのです。

「ふははは! よろこべ! この俺様が来たのだ! どうだかっこいいだろうかっこいいだろう!」
声も出ないのは感動しているからだと、彼は疑いません。

今夜も船長は、堂々と読者の前へ現れます。
「よくぞきた読者諸君。君たちは実に光栄だ。なにせ、このフック船長の物語を読むことが出来るのだから」
懐中時計を鳴らしながら、彼は誰にでも同じことを尋ねます。
貴様の目的にも協力してやろう、と付け加えて。

「貴様も俺様の、
仲間にならないか?」

こうして、海に消えるはずだった船長の物語は、今も手下を増やしながら、世界一の海賊への航路を進み続けている。

THE CLOCK STILL TICKS BEYOND THE LAST PAGE.

ワニを倒した船長は、
今日も手下を探している。

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