本来の物語で、ヴィクター・フランケンシュタインは、二人目の人造人間を作る作業に取りかかる。
しかしさらなる怪物の増加を恐れ、作るのを止めて、機器を海へ投げ捨てた。
二人目は、この世に生まれなかった。
しかし、その頁は書き換えられていた。
ヴィクターは、二人目の人造人間を作り出した。
雷鳴が山々を震わせる深い夜。
古びた屋敷の地下で、実験台に一人の少女が横たわっていた。
最初の創造物を見たとき、ヴィクターは恐怖に耐えられず逃げ出した。
今度は違う。自分が目を背けずにいられる存在を作りたかった。
最後の器具を外すと、少女の胸がわずかに上下した。
自分が何者なのかと尋ねられ、ヴィクターは少しだけ黙った。
怪物でも、実験体でも、創造物でもない。
「アンシア」。それが、彼女に与えられた最初のものだった。
アンシアはその響きを口の中で転がし、小さく笑った。
その瞬間、ヴィクターの胸に、責任だけでは説明できない感情が生まれた。
最初の創造物に抱いた恐怖とは、まったく正反対の愛だった。
アンシアは少しずつ世界を覚えていった。
初めて雪が降れば窓辺から離れず、蝶を見つければ追いかけ、雨が降れば夜まで窓を眺めていた。
静かな屋敷に、足音と笑い声が響くようになった。
問題は、その身体が驚くほど脆かったことだった。
少しの衝撃で首や腕や脚が外れ、長く歩けば熱を出す。
ある朝、庭の小鳥に夢中になった彼女は椅子から落ち、腕を外してしまった。
それでも気にしていたのは、小鳥がまだいるかどうかだった。
ヴィクターは呆れながら治療をした。
階段を一人で下りることを禁じ、庭には必ず付き添った。
怪我が治れば、アンシアはまた外へ行こうとした。
やがてアンシアは、人間について書かれた本を読むようになった。
人間には家族や友人がいて、自分の住む場所を選び、自分の人生を決めている。
自分には名前がある。それ以外は、何も決まっていない。
ある夜、暖炉の前で、アンシアは人間になりたいのだと伝えた。
ヴィクターはすぐには答えられなかった。
けれど否定もせず、彼女が望むならその方法を探したいと思った。
深い話をしていたと思えば突然鳥を追いかけ、難しい質問の直後に夕食の話を始める。
そのちぐはぐな明るさが、彼には愛おしかった。
庭の端から屋敷の裏手へ、森の入り口へ、そして門の前へ。
ヴィクターは支えられる距離を保ちながら、彼女が手を伸ばすまでは手を出さなかった。
初めて町へ出た日、アンシアは店先の果物や遊ぶ子供たちに笑った。
けれど帰り道、足は動かなくなった。
抱き上げられながら、彼女は悔しそうに自分の足を見つめた。
人間になるとは、何でもできる身体を手に入れることではない。
できないことの中で、どう生きるかを自分で決めることなのだ。
それからアンシアは、毎朝短い距離を歩き、疲れれば休み、怪我をすれば自分で手当てをした。
ある日、研究室の机に、衣服、薬、包帯、食料、小さな薬箱が用意されていた。
ヴィクターは何も言わなかった。
寂しかった。それでも嬉しかった。
守られるのではなく、任せてもらおうとしているのだと分かったからだ。
一人で買い物をし、食事をし、少しずつ町までの距離を伸ばしていった。
そばに置き続けるだけではいけない。
彼女が望む人生を歩けるようにすることも、愛なのだと、彼は理解していた。
ある夕暮れ、アンシアは一人で庭を横切り、門の前まで歩いた。
肩には自分の荷物がある。
ヴィクターは引き止めず、いつものようにそこに立っていた。
身体は相変わらず弱い。
それでも、自分で歩ける。自分で休める。助けが必要なら、自分から求められる。
自分で帰る場所を決めることもできる。
アンシアは一度だけ振り返り、微笑んで、門を開けた。
もう誰かに抱き上げてもらわなければ進めない少女ではない。
「アンシアはね、アンシアっていうの!」
難しいことはわかんない、と笑いながら、博士がつくったじんぞーにんげんなのだと、誰にでも話す。
世間知らずで、後先を考えず、喧嘩にも弱い。
笑いのツボは、少しだけ人とずれている。
今のアンシアは、人間になる方法を探している。
ときどき「ねえはかせ!」と呼びかけて、あはは〜と笑う。
腕が外れれば、なおすのめんどくさーいと口をとがらせる。
そして誰かに寝癖を指摘されれば、当たり前のように自分の首へ手をかける。
「え? 寝癖がついてる?
まってね、すぐなおすから!」
こうして、捨てられなかった機器から生まれた少女の物語は、与えられた名前を胸に、今も自分の足で続いている。